全身性強皮症の病態
全身性強皮症は、皮膚および内蔵臓器の線維化(硬くなること)、血管障害、免疫異常を特徴とする全身性疾患であり、3つの病態が複雑に関連し、様々な症状を呈します。全国に3万人以上の患者さんがいると思われます。
強皮症を完全になおしてしまう治療法は確立されていません。しかし、コントロールする治療法はいろいろと開発されています。症状はそれぞれの患者さんによって様々ですので、それぞれの患者さんに適した治療法を考えます。強皮症をうまくコントロールしながら長くこの病気とつきあっていくこと(共生する)を考えてください。
全身性強皮症は、指定難病の一つとされているので、強皮症の患者さんの診断・治療費の一部は公費負担となり、支払いが軽減されます。この制度を受けるためには難病医療費の申請が必要です。
強皮症の病型分類
強皮症患者さんには、しばしば自己抗体(自己の成分に対する抗体、正常な人では通常みられない)が出現します。抗核抗体、抗トポイソメラーゼI(Scl-70)抗体、抗セントロメア抗体、抗 RNA ポリメラーゼ抗体などの自己抗体が強皮症にあらわれることがわかっており、診断上の参考になります。
抗トポイソメラーゼ I(Scl-70)抗体や抗 RNA ポリメラーゼ抗体が陽性の患者さんは、びまん型皮膚硬化型の全身性強皮症という皮膚硬化が広範囲になるタイプになりやすいことが知られています。
一方、抗セントロメア抗体陽性の患者さんは、限局皮膚硬化型の全身性強皮症という皮膚硬化が手指や足に限局するタイプの強皮症になりやすいことも知られています。一般的に、びまん型皮膚硬化型(皮膚硬化が広範囲のタイプ)のほうが内臓の合併症が多い傾向があります。
びまん型皮膚硬化型の場合、レイノー現象とほぼ同時かレイノー現象がなく、皮膚硬化が始まります。1~5年ぐらいの間に皮膚硬化が進行し(浮腫期、硬化期)、その後は少しずつ皮膚硬化が軽減していきます(萎縮期)。限局皮膚硬化型の場合は、レイノー現象が数年~数十年先行して皮膚硬化が始まります。
強皮症の症状
強皮症の半分以上の人は、レイノー現象で始まります。レイノー現象とは寒冷刺激や精神的緊張により、指先が突然白色や紫色に変化し、短時間のうちにもとにもどる現象です。そのほか、指先のむくみ、こわばり、皮膚の硬化、関節の痛みや疲れやすいといった症状ではじまることもあります。
皮膚の症状としては、指先から始まる皮膚の硬化、色素沈着、指先の陥凹、手指の短縮、皮膚潰瘍、毛細血管拡張などが挙げられます。内臓臓器の合併症としては、逆流性食道炎、慢性の下痢や便秘、肺線維症、腎クリーゼ、肺高血圧症、心臓疾患などが挙げられます。これらの合併症の精査を定期的に
行っていきます。肺、心臓、腎臓の病変が生命予後を左右します。
レイノー現象
レイノー現象は、典型的には手指の小動脈の虚血再還流によって、白 ( 虚血 )、紫(チアノーゼ)、赤(再還流)の三相性の色調変化を呈しますが、白~紫や白~赤といった2相性もみられます(図)。レイノー現象出現時には疼痛、痺れを来すため、患者のQOL低下をもたらします。寒冷刺激や精神的ストレスによって誘発され、寒冷時には症状が増悪します。手指の小動脈の攣縮(一過性収縮)が起こり、末端部が発作性に虚血状態となり、その後に再還流が起こることによって、手指の色調が変化する現象です。全身性強皮症ではレイノー現象が初発症状となることが多く、ほとんどの症例(80%以上)で経過中に出現します。特に、限局皮膚硬化型の全身性強皮症では初発症状となりやすいことが知られています。
爪部の毛細血管異常
正常な方の爪の根元の皮膚では、キャピラロスコピーやダーモコピーといった拡大鏡で見ると、規則正しく均一の太さで等間隔に整列している毛細血管がたくさんが見えます。しかし、強皮症患者さんでは、血管が膨らみ大きくなり、数が少なくなり、配列が乱れています(図)。また、外的刺激によって簡単に出血し、甘かわ(爪上皮)に出血点がみられます。これは肉眼的にも確認することができます。多くの場合は、甘かわ(爪上皮)が長くなっています。これらの爪部の毛細血管異常は発症初期から観察されるため、早期診断に重要な所見です。
主治医に緊急連絡すべき症状
腎臓の血管が硬くなった結果、突然高血圧になり、頭痛、めまい、けいれん発作、血尿などを伴うことがあります。これは強皮症腎クリーゼと呼ばれています。強皮症患者さんは毎日きちんと自宅で血圧を測定し、血圧が上昇した時はすぐに主治医に連絡するようにしてください。特に、びまん型(特に抗 RNA ポリメラーゼ抗体が陽性)の患者さんに多いことが知られていますので、このような患者さんは特に血圧の変化に注意してください。
強皮症の治療
現在のところ、全身性強皮症を完全によくする薬剤はありません。
しかし、あきらめないで下さい。最近の進歩によって、ある程度の効果を期待できる治療法は開発されてきました。特に発症から5~6年以内の「びまん型全身性強皮症」では治療の効果が最も期待できます。
代表的な治療法として
①ステロイド少量内服(皮膚硬化に対して)
②シクロホスファミド(肺線維症に対して)
③プロトンポンプ阻害剤(逆流性食道炎に対して)
④プロスタグランジン製剤(血管病変に対して)
⑤ ACE 阻害剤(強皮症腎クリーゼに対して)
⑥エンドセリン受容体拮抗剤など(肺高血圧症に対して)
が挙げられます。
本記事の制作・監修について
本記事は、群馬大学大学院医学系研究科皮膚科学 教授 茂木精一郎 先生に監修していただき、制作いたしました。